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仙石通泰氏 (株)三技協代表取締役 “情報の海”が実現した オプティマイゼーション経営 コアはサイバーマニュアル ②

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改革はザウルスから始まった

仙石 佃さんの興味に対する適当な答えかどうか分からないけれど、私はね、ERPっていうのは何だろう、と考えるわけです。R/3というERPパッケージを使っているけれど、それは本当の意味でのERPじゃない。社員が面白がって仕事をするには、数字の管理だけじゃダメなんですよね。いま自分が何をやっていて、それをチームの人だけじゃなくて、社長もちゃんと分かっていて、問題があったら皆んなで知恵を出し合って解決していく。そういうのが本当のERPだと思っている。

 ――整理するために三技協におけるコンピュータ利用の経緯をうがいましょうか。そうすると仙石さんの話が分かりやすくなるかもしれない。

仙石 あ、そうね。そういうことで言うと、1992年までは日本電気の汎用コンピュータを使ってたんです。

 ――ACOS(エイコス)?

仙石 そう。ACOSのユーザーだった。汎用機による集中処理、EDPの時代ですよ。でもガチガチで何をするにも時間がかかってね。しかも固定費として上昇することはあっても下がることはない。92年にレベルアップはしない、継続利用もしないと決めました。当社は日本電気さんからたくさん仕事をもらってましたからね、だからACOSを撤去するっていうのはそれなりに勇気が要った。
 ――それでオープンシステムに移行した? でもパソコンといっても、当時はまだ使いにくかったでしょ?
仙石 95年まではだからACOSとサーバーの並行稼働でやりくりしていたんですね。一方ではWindows3.1だったかな? それで簡易LANを構築して……。いや、ちょっと待ってよ。ザウルスを使おうとしたことがあったな。
 ――ザウルスね。シャープの情報端末。懐かしいですね。
仙石 これは面白そうだ、っていうんで、あれを全社員に配ってWANを作ろうと考えた。私は面白そうだと思うと、ます自分で使ってみて、それを何とか仕事に使えないかということを考えちゃう。それで社長は自分の趣味で遊んでばかりいる、と役員から注意されたことがある。
 ――遊ぶ、っていったって、銀座で豪遊するわけじゃないですか。

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「サービス業」に必要なもの

仙石 銀座で豪遊なんてとんでもない。当時、当社は赤字の連続でしたからね。大手電機メーカーや通信会社に仕事の100%を依存する「通信工事の下請け会社」だった。労務提供型だったから収益性が悪い。「下請け体質」から脱皮するにはどうすりゃいいか、ということばかり考えてました。従業員に「自分たちの仕事の本質は何か」を考えさせたのと同じように、私は社長としてザウルスと取っ組んだ。
 ――他の役員にはそれが理解できなったんでしょう。赤字なんだから経費を節減する、というのが常識的な判断ですからね。なのに仙石さんは投資をしようとする。
仙石 節減した分を次のステップに向けた投資に回さないと、会社はますます元気を失っちゃう。
 ――縮小均衡ね。従業員のリストラとか事業の縮小は、それはそれでやむを得ないこともあるけれど、将来のビジョンがないと萎縮するだけになっちゃう。
仙石 お金がかかる汎用機をやめて、もっと安くて便利な情報機器を使って、会社を元気にするための投資をしたわけです。だからIT投資は社員の意識改革と並行していた感じ。当社の仕事は通信回線の敷設やデータ通信障害の解析などで、モノを作って売るわけではない。紆余曲折の末、最終的に「サービス業」だという結論に到達したわけだから、「サービス業」であるためには何をしなければならないか、「サービス業」としての仕事を円滑に進めるにはどのような手順が必要かを社員全員で考えた。
 ――改革の手段としてITがあった?
仙石 ともいえるし、改革の結果がITだったともいえる。アメリカ暮らしで、企業の運営にコンピュータとネットワークが重要ということを体感してましたから。で、結局、ザウルスは諦めて、Windows95とインターネットに軸足を定めて……。それがはっきりしたのが1997年だったかな。全社の基盤としてグループウェアを導入して、社員の情報リテラシーを底上げするためパソコン教室を開設した。
 ――いまなら当たり前だけど、当時としては珍しいほうだったでしょう?
仙石 何をやりたかったかというと、全社員に毎日の業務を簡潔にレポートさせ、その情報を経営陣、営業部門、プロジェクトチームが共有する仕組みを作りたかった。現場で何が起こっているかがダイレクトに経営陣に伝わり、問題が大きくなる前に原因を解決したり、営業交渉で結論が出てから経営陣が仕方なく事後承認するというようなことをなくしたかった。そのためには、まずお金の出入りや在庫管理とかをきっちりできるようにしなければならなかった。R/3を入れたのはそのためで、それ以上でもそれ以下でもない。

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ERPパッケージは“財布”

 ――じゃ、三技協にとってR/3はERPじゃないんだ。
仙石 世の中で「ERPパッケージ」と呼ばれているソフトウェアですよね。でも三技協にとっては“財布”みたいなものでね。
 ――財布?
仙石 だって三技協の本業に直接かかわるシステムじゃないもの。IT業界では財務会計とか人事給与とか、在庫管理、販売管理なんていうのを「基幹系」っていうでしょ? でもそれって、ユーザーの立場で見たら「当たり前」のシステムなんですよね。お金の出入りをきちんと管理するのは当たり前じゃないですか。販売管理だってそうだし、倉庫に部品や製品がいくつあるか、それが分かるのだって当たり前。
 ――なるほどね。IT業界は「基幹系」と呼んで金科玉条にしているけれど、ユーザーにとっては当たり前のシステムなんだ。
仙石 パッケージをカスタマイズする、っていう話がありますね。当社はR/3にいっさい手を加えなかった。使える機能だけ使った。だって、ただの“財布”だもの。「R/3の機能を使い切る」ことに眼目を置いた。
 ――じゃ、どうやったら三技協の特徴を出せるか、ですね。
仙石 だからERPなんですよ。これまでに取り組んだ仕事の手順とか、業務遂行上の留意点や失敗の原因とかを文書化しましてね、それをデジタルデータとして蓄積していった。また営業交渉のプロセスやユーザーからのクレームも電子化してデータベースに格納した。社内外のノウハウがデータベースに蓄積されていったことで、ナレッジマネジメントが実現したわけですよ。ERPっていうのは日本語に訳すと「全社資源計画」じゃないですか。当社にとっての経営資源っていうのは、お金の出入りじゃない。
 ――確認のためにうかがうんですが、それはR/3の話じゃないですよね?
仙石 そう。R/3はただの“財布”ということ決めて、それとは別に情報共有のシステムを作った。「ユーザーからの要求やクレームが蓄積されるということは、ユーザーのノウハウが当社に移転されること」という考え方があった。

(以下次号)

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コメント

この仙石さんの視点に僕は共感します。日本でのERPはこういう現場の顧客に向けたサービス(社会的付加価値)の向上のための知能共有を軸に構築することによって実体経済による経済システムを作ることができると思います。BPIAでの大三紙業の松井社長のも同じ視点でのERP構築で大変な効果をあげているとの発表があったと思います。これは世界的に通用する普遍性を持つと思います。アメリカは会計、つまり経営陣のためのERPとなっていて、そうすると企業そのものが金融商品になってしまう。それが今回の金融危機の根本にある問題だと思います。ところで三技協はPBTシステムに先駆けてR/3を導入していたとは存じませんでした。

投稿: 山田博英 | 2008年11月23日 (日) 12時16分

私はここで仙石さんが言われているERPの構築概念に全く同感です。もちろん日本の現場も変革が必要ですが、現場のやりやすくなるようなERPを構築することにより、マーケットに柔軟に対応できる組織ができると思います。その代わり現場は自律した優秀な現場でなければならない。船が沈没することを察知できないでいくら乗客にサービスを振りまいてもだめだからです。財務諸表に合わせるERP構築では組織が現場離れを起こす。財務経理処理は財布の話に過ぎない、は名言だと思います。

投稿: 山田博英 | 2009年1月22日 (木) 22時00分

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