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経済激震 IT産業への影響を探る ②

 ――余談になるかもしれませんが、これもIT業界の今後に重要なんで。それというのは、政府が発表した追加経済対策です。これって景気下降の歯止めになるでしょうか。
竹田 あれって法律の改正とか国会の議決とかが必要なんでしょ? 実施できるかどうか、分からないじゃない。
 ――民主党が異論を唱えているし、与党の中にも不協和音が出てきた。ですから、もし実施されたら、という仮定の話です。 
 あんまり期待できないんじゃない? 個人的には定額給付は嬉しいけれど、貯金しちゃうでしょ。これだけ将来不安があるんだもの。それにわたしは車を運転しないから、高速道路料の値引きは関係ない。(笑)
 ――わたしは運転するけど、千円になったからといって旅行には行かないな。だいたいね、政府の言ってることは矛盾しているんですよ。ガソリンにかかっている道路特定財源の暫定税を廃止すると自動車がたくさん走るようになって、地球温暖化防止策に反する、って言ってましたよね。じゃ、高速道路料金の値下げはどうなのか、ですよ。
西田 あれは福田さんが言ったことだから、麻生政権としては矛盾はない、という理屈なんですよ。もちろん屁理屈だけど、そういうのにいちいち反応するのって、疲れちゃう。 
 CO2もだけど、割引はETC装着の一般車に限定されて、トラック輸送には適用されないんでしょ? それじゃ物価抑制効果もないし、運輸業界には何の恩恵もない。となると内需拡大には作用しない。どうもトンチンカンなんだな。
西田 家族4人で1泊旅行に行ったら、給付金なんて吹き飛んじゃう。それなら子どもの教育費とかに使いますよね。じゃなかったら、やっぱり貯金かな?
竹田 麻生さんは最初、「全世帯に」と大風呂敷を広げたけど、政府・与党内から異論が出てきた。公明党の案では成人一人当たり1万2000円、18歳以下の子ども一人につき8000円の上乗せで4人家族だと6万4000円。現金をバラ撒くのは、見え見えの選挙対策でね。給付金なんていっときで終わっちゃう。    
 ――中小企業向け融資枠の拡大はどうですか。IT業界だって中小・零細企業の集まりなんだから。
西田 総額30兆円でしたっけ? そのうち20兆円が信用保証枠ということだけど、企業にとっては借金なんで、いずれは返さなけりゃならない。景気の先行きが見えないときに借金を増やすのは、健全な経営とはいえない。
 ――実は信用保証にはウラがあってね、政府が保証するのは貸付金の8割までなんだって。2割は市中銀行の自己責任だから、「はい、そうですか」と金融機関が融資するかどうか。
竹田 貸し渋り、貸しはがしが始まっているというし。そもそも融資を申請するのは経営が苦しいからだからね。ソフト業は余剰人員をリストラすれば済むかもしれないけれど、製造業はそういうわけにはいかない。 
 企業への融資っていうのは、本来は再生産のための投資を前提にすべきなんだ。新しく工場を作るとか新製品を開発をするとか。
竹田 ところが仕事がなくなってくると、運転資金に充てざるを得ない。そうなると新しい不良債権を生み出すことになりかねない。それより、こういうときだからこそ、仕事を作って雇用を下支えするとか、将来不安の緩和に投入したほうがいい。
 ――一世帯当り約2万円の雇用保険料引下げが盛り込まれてますけどね。
西田 その分、失業保険の支給額が減るだけじゃないんですか?
 ――本当のことをいうと、雇用保険料の積立金は年間5千億円の収入超過になっていて、景気変動と関係なく料率を引き下げる方向で検討していた。景気対策として盛り込んだわけじゃないみたいだよ。
西田 な〜んだ。それじゃお為ごかしみたいですね。社民党の福島さんが「カツ丼をおごってもらったら、あとで1万円の請求書がくるようなものだ」と言ってたけど。

将来不安の払拭を優先したら?    

 ―― たしかに雇用保険の料率が下がれば企業の負担は軽くなる。でもそんなのは小手先の策ですよ。いま取り組むべきは社会的な将来不安を払拭することじゃないですか? 日雇い派遣、非正規雇用者が全体の3割というんじゃ、医療制度も年金制度も成り立ちゃしませんよ。将来不安を払拭しないと、消費は増えない。
竹田 ソフト業に日雇い派遣があるかどうか知らないけど、契約社員はどうなんだろう。あれって個人事業者の扱いなのかな?
 ――契約社員でも会社が税金や社会保険を処理しているケース、確定申告のケースがあるみたいです。確定申告だと、ちゃんとやらない人が少なくない。だから所得税も健康保険料も国民年金も払ってないわけです。払いたくても払えない人がいる一方、端から払う気がない人もいる。
西田 健康保険も年金も破綻するわけだ。
竹田 そういう人はこの業界にどれくらいいるんだろう。
西田 経産省の統計では正確なところは分かりません。特サビ(特定サービス産業実態調査)で情報サービス業の就業者は約80万人ということになるけれど。
 ――10万人は下らないんじゃないですか?
竹田  登録型の派遣会社にもIT技術者はいるだろうしね。
 ――だからまず非正規雇用者や生活保護受給者に定額支給して、それを社会保障費の未徴収分に充当する。〝行って帰って来い”だから国庫としては純損じゃない。年金で過去のデータが確認できない人には、当人の申告を全部認めちゃう。2兆円もあれば、将来不安を払拭できるんじゃないか。 
 年金特別便を郵送したり名寄せシステムを作る金があったら、それで払っゃったほうがいいよね。    
 ――それともう一つは、税率の格差是正じゃないですか? 非課税限度額と累進課税率の見直し。所得税の最高税率は、昔は75%だったのが現在は約40%。その恩恵を受けてる人が200万人もいる。
西田 年収5000万円だと手取りは3000万円か。そりゃ、もっと徴っていいよな。手取り月収が百万円を超えたら高給取りですよ。
 ――主婦のパートだと年103万円を超えると所得税がかかる。だからこれ以上働くと税金がかかるから、っていう主婦が少なくない。
竹田 最低賃金が1時間800円として、一日8時間で6400円。かける20日で……、いくらになる?
西田 ええとね、月12万8000円だから……(と電卓を叩く)、年153万6000円。
 ――そこまで思い切って無税にしちゃう。
 ますます税収が減る。
 ――正味の減収は、たぶん5000億円ぐらいですよ。経済対策としては、こっちのほうがインパクトが強いし、消費が増える。
室 なるほどね。定額給付金よりはいいかもしれない。
竹田  法人にも適用して、課税対象額が150 万円以下なら非課税とかね。零細企業だって従業員払って、社会保険も半分負担している。それだけで十分に社会に貢献しているし、大企業は過去最高益でも中小・零細は汲々としていたんだから。
 経営者としての実感だな(笑)。でも、それなら零細企業は助かるよね。ソフト会社もリストラしないで済むかもしれない。
 ――ま、これは素人考えだから、本当のところは分かりませんけど。

    

(以下次号)

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