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経済激震 IT産業への影響を探る ③

 ――ここまで話してきて、今回の経済激震は遠からずIT業界にも波及して、それはかつてない大波になりそうだ、と。対して経済対策の効果は怪しいぞ、ということで全員の見方が一致しているみたいです。このあたりでIT予算ないしIT投資への影響を考えたいんですが。
西田 間違いなく縮小しますよ。バブルがはじけたとき、業界、特にソフト業は人が余って、結局は10万人ぐらいリストラした。それと同じことが起こる可能性がある。
 ――しかしあれから15年も経ってるんだから、「だからこそIT投資」というふうにはならないもんでしょうかね? と言っている私も実は否定的なんだけど。
 まぁ難しいだろうねぇ。景気の後退がはっきりしたら、IT投資はいっぺんに冷え込むでしょ。
竹田 例えばアメリカの企業と日本の企業を比べると、日本の情報化投資はアメリカの2分の1か3分の1でしょ。本来ならもっとITに投資していいはずなんだよ。
 ――去年の7月に総務省が発表した『通信白書』に、〔民間設備投資に占める情報化投資の比率〕っていうデータが載ってます。それによると、2006年のアメリカは34%、日本は22%。興味深いのはアメリカはそのうちハードウェアが7割、ソフトウェアは3割。日本はハード55に対してソフトが45。日本のほうがソフトウェアの構成比が高い。 
 へえ、それはちょっと意外ですね。アメリカより日本のほうがソフトウェアの比率が高いんだ。
西田 だからといって日本のIT投資のほうが質が高いとはいえない。ソフトの生産性が悪いだけかもしれない。 
 あ、それは言える。
竹田 それとソフト業の多重下請け構造が見かけの売上高をかさ上げしているんじゃない?
 ――一時的にIT投資が引き締められるのは止むを得ないとして、しかしいつまでもそのままということはないでしょう?
竹田 ユーザーだって、首をひっこめたままよいうわけにはいかない。どこかで再開するんだろうけれど、今回の経済激震はまだ底が見えてないからな。
――じゃ、来年の春に底を打ったとして、そのあとはどうですか。
竹田 それが分からない。バブル崩壊のあとにはウインドウズとインターネット、ERPという浮揚のファクターがあった。パソコン減税、IT投資減税も底支えになった。さて、今度はどうだろう。
 底を打ってからどれくらいで喫水線を超えるかだな。
竹田 今回はね、不良債権がどこに紛れ込んでいるか分からないわけだ。地雷原を行くみたいなもんで、いつ、どこで、どんなかたちになるか分からない。それとアメリカのサブプライムはローンを返せなくなった人が家を差し出せばいい。日本だったら家を失っても借金は残るでしょ? そうすると金融機関は差し押さえた家を売るに売れないわけだから、不良債権は今より大きくなる。
 ――それがミンチの肉みたいになって、ハンバーグやハムに紛れ込んでる。
竹田  日本の金融機関はリーマン・ブラザーズとかから、利回りのいい債券としてずいぶん買ってるからね。そこに資金を出してる企業に影響が出る。底なし沼みたいなもんだな。    
 ――売上高が減っていけば、情報化の予算も減る。でもIT化は必須でしょ? じゃ、どうするのか、ですよ。
竹田 だから投資という形で再開するんじゃなくて、例えばサービスを買うみたいな形じゃないかな。
 いよいよSaaSの時代だ。
西田 いや、室さん、理屈ではそうだけど、日本のユーザーがそう簡単に割り切れるかどうか。情報システムばっかじゃなくて、日本人は車でも家でも自分で持ちたいんですよ。所有していることが重要なんじゃないですか。
 ――中堅、中小企業の場合、そうとは限らないんじゃない? 今年の夏、中堅企業にヒアリングしたら、データ管理とかセキュリティの問題がクリアできるんなら、料金次第でSaaSを利用するかも、という答えが多かった。
 カスタマイズは?
 ――カスタマイズなんかしない、って言うんですよ。使える機能だけを使う。自社の「コアシステム」は自分で作る、と。これはどこかに書こうと思っているんだけれど、われわれが言っている「基幹システム」っていうのは、ユーザーにとっては基幹でも何でもない。企業を運営していくために、〝あって当然〞のシステムで、「コアシステム」は別なんだというわけです。
竹田 その傾向は一気に強まるだろうな。バブル後はゼロから手組みするよりパッケージをカスタマイズする方法が取り込まれるようになったでしょ。本紙の11月10日号に佃さんが書いた景気と情報システムの関係、あれは非常に興味深い考察だった。 
 でも、手組みしてる企業が圧倒的に多いですよ。いつまで作るんですかね?
竹田 ERPとかCRMとか、80年代にはなかったシステムが導入されている。
西田 それとインターネットを使ったビジネス向けサービスが成立している。記者会の調査では、そういうサービスは去年、5000億円ぐらいの規模になっている。
 ――SaaS関連の売上高を調べたら約1300億だったかな?
竹田 そういうふうにユーザーのマインドが変わってきた。この景気後退をきっかけに、ユーザーは「サービスを買う」方向に動くと思う。
 ――まったく普及していないけど、自治体も共同アウトソーシングに移行するでしょうね。問題はその場合、文字コードとかデータ構造が標準化されていないこと。電子政府のシステムにこれまでに10兆円ぐらい税金が使われてると思うけど、そういうことをやってないからギクシャクして二進も三進もいかなくなっている。
 そんなに使ってるの?
 ――中央官庁と地方自治体、独立行政法人なんかを合算すれば、ですけど。それはともかく、SaaSの話に戻すと、いまは電子決済とかデータ交換といったアプリケーションを使っているだけだけど、業務処理に適用するには課題が少なくない。
竹田 行き着くところはクラウド・コンピューティングだよ。
 ――何もかもWebにお任せじゃなくて、これは自社で構築する、これはSaaSでいい、というふうに切り分けが進むんでしょうね。家庭だって収入が減ればお金がかかる自家用車を手放してバスや電車に変える。外食は控える。予算が少なくなれば、そうせざるを得ない。つまり情報システムを作らない時代がくる。
 そのためには、もう一段のIT投資減税かな。SaaSに誘導するような。あとは人材の育成。IT人材育成助成金とかね。
 ――減税じゃ効き目は少ない。ITに投資したり従業員の教育研修に使うんなら純利益から一定額を控除するとか。非課税の利益を戦略的な投資に回すような仕組みが必要なんですよ。助成金を出したからって優秀な人材が育つとは思えない。
西田 それより問題なのは、景気が悪化すると、企業に人を育てる余裕がなくなることじゃないですか? ユーザーもIT産業も、人材を育てるには余裕が必要ですからね。目先の売上げ、目先の利益を追いかけて10年後、20年後の人材を育ててこなかった。 
 この10年で急増した派遣社員っていうのは、要するに企業にとっては便利なショックアブソーバなわけだ。業績に応じて簡単に増減できるし、契約を打ち切るだけだから、企業にとってはバブル崩壊のときのリストラほど罪悪感がない。こんなこと繰り返してたら人材なんて育たないよね。
竹田 もう一つ深刻なのは経営者。国会議員と同じようにソフト会社の経営者も二代目、三代目。そうじゃなきゃサラリーマン化してるでしょ。苦労して会社を大きくした創業者のような情熱、がむしゃらさに欠けるんだよね。その点、鉄鋼や自動車は違うよね。ちゃんと次の世代を育てている。
 ――いまの話に関連してですが、ユーザーの情報子会社にも同じことが言えるみたいです。30 年前は本社の電算部門が独立したから、シ ステム全体のことがア・ウンの呼吸で伝わった。今は情報子会社が世代交代して親会社の業務が分からなくなっている。そんなことを聞きました。
竹田 あ、それはわたしも耳にしたことがあるな。どこでだったかは忘れちゃったけど。しかし人材も育ってない、経営者も劣化している、業務が分からないとなると、これは今回の経済激震とは別の大きな問題だな。
             

(以下次号)

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