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経済激震 IT産業への影響を探る

 米国に端を発したサブプライムローンの破綻が世界規模の金融不安を引き起こした。加えて資源価格の高騰、就労者の3割といわれる非正規雇用者の増加、年金・医療にかかわる将来不安など、20世紀型の社会・経済フレームが抱えていた矛盾が一気に噴出した感がある。バブル崩壊期を除いて一本調子で成長してきたIT産業はどのような影響を受けるのか、先に行われた米大統領選の結果も踏まえ、緊急座談会をネットワークニュース/IT記者会合同で開催した(司会:IT記者会佃均)。

メーカーは軒並み減益

 ――「ネットワークニュース」紙の創刊25年と紙面一新、編集オフィスの開設、IT記者会との提携等々もろもろあって、座談会の企画を考えていました。昨今の状況から、テーマは自ずから「経済激震~IT業界への影響は?~」ということになる。加えて米大統領選挙の結果も出たんで、それを踏まえて今後をどう見ているか、まずうかがいたいんですが。

竹田 麻生首相が「100年に一度の危機」と言うくらいだから、今回の金融不安は相当根が深いんでしょう。どう考えても経済はお先真っ暗という感じが強い。単純に図式化すると、産業界の投資が減るし、個人消費も伸びない。そうなるとIT産業が大きな打撃を受けるのは避けられない。業界再編に拍車がかかるんじゃないかな。

   いたずらに危機感をあおるのは、もちろんよくないけれど、激変は必至でしょう。IT産業の大口得意先である金融、製造業がダメージを受けている。それと株価。瞬間的にではあれ、26年前の水準に落ちてしまった。ここから1万4千円台に戻るのは並大抵じゃない。

西田 わたしも同じ見方です。IT業界、特にソフト業は典型的な多重下請け構造だから、トップ企業の収益の揺れ幅が下に行けば行くほど大きくなる。

 ――ソフト業のことは追い追い話すとして、まずハードウェアメーカーはどうですか。

   今年度中間期の売上高は、NECが0.6%減の2兆1278億円、日立が0.6%増の5兆3105億円、富士通が2.4%減の2兆4537億円。富士通の落ち込みが大きいけれど、4―9月期なので今回の景気減速の影響は出ていない。影響が出るのは下期ですよ。

 ――どれくらいの落ち込みなんですか。

   NECは0.4%減の4兆6000億円、日立は3%減の10兆9000億円、富士通は5.3%減の5兆500億円と言っている。あくまでも現時点での予想で、円・ドル相場がどう動くかによってずいぶん違ってくる。

 ――パーセントは期初予想との比較?

   いや、前年同期比。

 ――キヤノンやリコーは?

 室  売上高予想はキヤノンが5.2%減の4兆2500億円、純利益は23%減の3750億円。リコーの予想は売上高が3.1%減の2兆1500億円、純利益は18・2%減の870億円。NECも純利益は約34%減の150億円、日立は5%減の3100億円、富士通は約25%減の6000億円、東芝は売上高が0.4%増の7兆7000億円、純利益が54.9%減の700億円だから、コンピュータ系、事務機器系とも、メーカーは軒並み減益だね。

▼ネットワークニュース社主筆 竹田義則氏

▲ネットワークニュース編集長 室 隆志氏

7―9月期が転機

竹田 みんな期初は好調に推移すると見ていたんだよ。NECは期初予想から2千億円、富士通は3千億円も下方修正した。日立、東芝は重電、家電を持っているんで売上高は極端に下がらないけど、東芝はフラッシュメモリーとシステムLSI、デジタル家電が不振。7―9月期で予想がひっくり返った。いきなり大波が来た、っていう感じ。富士通によると円・ドル為替が1円違うと営業利益が6億円影響するそうだから、為替レートがポイントだな。

 ――サブプライムローンの問題は去年の今ごろ、すでに指摘されていたけれど、日本国内では食品問題とか日雇い派遣とかの問題がクローズアップされてましたよね。だから、いきなりアッパーカットを喰らったような感じですよね。

竹田 というよりボディーブロー。しかもかなり強烈。でも業界はそれほど深刻に受け止めていない。ちょっと節々が痛い、という程度じゃないかな?

 ――これから熱が出てくる、と。

 室  ハードウェアを売ってたんじゃ利益が出ない、っていうのはずっと前からはっきりしていたけれど、この10年、体質は全く変わってないからな。相変わらずサーバーだ、パソコンだといっている。いつまでパソコンをやるの? って聞きたいですよ。

 ――とうとう5万円の時代ですものね。

 室  OS込みで5万円ということは、本体は3万円ぐらいなんだよね。ある国産メーカーに聞いたら、組立てレベルではそんなもんなんだって。ところが日本では流通コストがかかる。代理店網を維持する費用、宣伝広告費とかがかかるから、どうしたって10万円台になっちゃう。

西田 日本のメーカーが頑張っても、デルとかレノボとかに負けちゃう。だってパソコンはもうコモディティ化しているし、ウインドウズXPで十分。企業はVistaaに切り替えるよりシンクライアントを考えるでしょう。

 ――もうさっきの熱が出てくるのはこれから、という話に戻るけど、室さんも西田さんも同じ見方ですか?

外からやってきた不況

   わたしはちょっと違って、立ち直れないほどひどくはならないと思うけど。

竹田 いや、そんなもんじゃないよ、今回は。悪くなるぞ、って分かっていたら何か対策を講じるけど、今回はサブプライムなんて海の向こうの話だと思っていて油断していた。それだけにボディーブローが利いてるから、もう一発か二発、小突かれたらうずくまっちゃうかもしれない。

 ――西田さんも同じ意見だとすると、仕方ないからわたしが「それでもドッコイ」を主張しないといけないかな?(笑)

西田 「それでもドッコイ」というわけじゃないんだけれど、いま、記者会で中間決算の数字をまとめてるんですね。すると、情報サービス業では業績にバラつきがあるんですよ。この前、日立情報システムズのアナリスト向けの決算説明会に行ったら、過去最高の業績だって言ってましたしね。

 ――運用サービス系も悪くないでしょう?

西田 インフォメーション・ディベロプメントとかね。ただ受託開発系はそろそろ影響が出ている感じです。でも全体で見たらどうかとなると、三角(前年同期比マイナスを示す「▲」)がズラッと並んでいる。通期決算が来年の5月に発表されたら、もっと▲が増えてるか、マイナスの数字が大きくなる。

 ――92年のバブル崩壊と比べたら、今回はどうだろう。

西田 バブルがはじけたときね、あれっていかにも「はじけたぞ~」っていう感じでしたよね。ディスコとか600万円もする高級車が流行って、タクシー券なんてバンバンだったでしょう? 当時、わたしは月刊誌の編集をやっていて、広告はガンガン入ってきた。どこかで破綻するよな、という感じがあったけれど、今度のはちょっと違う。

 ――構造が丸っきり違う。バブル不況のあとの金融ビッグバン不況も国内事情に要因があった。ところが今回は震源地がアメリカで、それがヨーロッパに飛び火した。おまけに新興国で原油や小麦の需要が増えた。

 室  サブプライムに原油高、食糧問題、株安、円高。ダブルパンチどころじゃないからね。いってみれば今回のは「外からやってきた不況」だよね。

竹田 国内の事情もバブルのときとずいぶん違う。今はねじれ国会で、麻生内閣は解散もできない。バブルのときは非正規雇用者の問題も年金問題もなかった。年功序列の見直しとか日雇い派遣とか、みんなバブル以後の話だからね。バブル不況と比較しても仕方がないんじゃないかな。

 ――そう。本紙は経済の専門紙じゃないから。でもユーザー企業の業績が悪化すれば、情報化投資が冷え込むという図式は基本的に変わらない。それともユーザーは「だからこそIT投資だ」という方向に動くだろうか。

竹田 本当はそういう方向になってくれるといいんだけど。でもそうはならない。佃さんはかなり早い時期に、ソフト業界に不況がやってくるぞ、と予測してましたよね。去年の秋には口にしてたでしょう? あれはどういう理由からだったの?

ピークは2004年だった?

 ――何となく、ですかね。ユーザー企業の情報処理予算を分析したら、総額は03年、04年に2000年を100とすると120ぐらいに上昇して、それをピークにどんどん下がって、06年は01年の水準に戻っている。なのに業界は「人が足りない」と大騒ぎしていた。

竹田 なるほどね。戦後最長の景気浮揚っていうのは、実は2004年に終わってた、ということか。

 ――一概には言えないでしょうけれど、少なくともピークは過ぎてた。バブルのときと同じで、ソフト業界は生産性や品質を上げることをしないで、人の数で対応しちゃった。不況要因を自ら抱え込んだんですね。

西田 あと、外注費比率なんかも記者会では指標にしていますよね。

竹田 それはどういうこと?

 ――記者会が年2回実施している情報サービス企業業績アンケート調査で、毎回、外注費比率を調べている。それと営業利益率をクロス集計すると、外注費比率が35%を超えると、売上高は増えるけれど利益率は落ちる。それを繰り返せば、どこかで失速しますよ。

竹田 浮かれているとき、耳に痛い指摘は無視されちゃうんだよね。

 室  経産省の特サビ(特定サービス産業実態調査)を見てると、情報サービス業は好調そのもの。それは見せかけということなのかな。

 ――10月に発表された今年8月分の統計では、情報サービス業の売上高は前年同月比2.9%増、8カ月連続で伸びてます。同じ経産省でも調査統計局と商務情報産業局は密接に連携してるわけじゃないから、情振課(情報処理新興課)がどこまで実態を把握しているか、疑問ではありますね。

竹田 今月発表される9月分が注目だな。だって実際は、ユーザーの中では去年の秋口から新規プロジェクトの延期なんていう話がチラホラあったんですよ。それが今年に入って表面化してきた。だから今回の激震がなくてもソフト業は頭打ちになっていたかもしれないんだよ。だからわたしは、相当深刻だと見ている。

                              (以下次号)

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