経済激震 IT産業への影響を探る ⑤
ソフト業は今こそ投資を
竹田 少しは変わるんじゃない? ソフトウェアの生産性を上げないことにはどうしようもないんだから。中国やインドが日本人の半額以下で、品質のいいソフトを作るようになってる。価格で対抗するのは限界がある。となると、生産の自動化と、もう一つは上流工程を抑えることしかない。
――VDMとか、いくつかトライアルが始まってます。
竹田 NTTデータとか富士通、新日鉄ソフューションズなんかも取り組んでる。余力がある今のうちですよ。
西田 昔のシグマシステムみたいなことにならなけりゃいいですけど。
――それはないでしょう。経産省の中で「シグマ」っていう言葉は今でも禁句だもの。
西田 トラウマになってるんだ。
竹田 今こそソフト会社は投資しなければならないんだよ。だいたい、ユーザーに「ERPで経営を効率化しましょう」って言ってるソフト会社がERP化されてない。だからプロジェクト管理も原価管理もできてない。工事進行基準に対応するのにバタバタしているのがその証拠ですよ。
室 強い企業が生き残る、っていうのが資本主義の原理原則じゃないですか。ソフト会社はそういう厳しい競争にさらされてこなかった。これからが本当の勝負、ということですかね。
――われわれが留意しなければならないのは、〔強い会社=大きな会社〕、っていうのは錯覚だっていうことですよ。逆に大きな会社ほど簡単に倒れる。
竹田 まさかリーマン・ブラザーズが破綻するとは思ってなかったものね。
規模拡大競争は今後も続く
――例えば〔3千億円クラブ〕なんていう言い方があるでしょう? それくらいの売上規模がないと、業界のトップ集団には入れないぞ、というわけですが、景気が後退するとおのずからM&Aということになって、規模の拡大競争が激化するんでしょうか。
西田 やばい、やるんじゃなかった、って思っている会社もあるんじゃないの? こんなことになるなんて想定してないもの。
室 システム開発の案件がもっと出てくる、少なくとも右肩上がりで伸びて行くという前提だったから、要員の確保と売上げの拡大だったわけですよね? 資金調達ができれば、もっと大きな案件をプライムで受注できるという戦略だった。
竹田 それは基本的に間違いじゃないと思うんだよ。やっぱり規模の大きな案件をプライムで受注するには体力が要る。でもそれだけじゃダメなんで、そこにプロジェクト管理能力とかシステム設計能力が伴っていないと、ただ技術者をたくさん抱えた派遣会社みたいになっちゃう。
――派遣なら派遣でいい、とわたしは思いますけど。実態は派遣なのに「請負」という形にしていることが問題ですよ。
竹田 そこはね、かなり是正されると思う。二重派遣が厳しくチェックされ始めたしね。
―というより、わたしは労働者派遣事業法対象からソフト業を外すべきだと思う。工場のラインで組み立てしたり、工事現場の車両整理のような仕事じゃないんだから。
室 派遣が野放しになってもいい、というわけ?
――そうじゃなくて、派遣型の会社は「派遣業」を名乗ってもらって、所管を厚生労働省にやってもらう。「ソフト業」と「派遣業」を分けて、システム設計で現状分析や業務分析をする場合とかシステム運用はIT派遣業務という別枠にしてもらう。そういう考え方があってもいいでしょう?
室 面白い発想だけど、なかなか難しいだろうな。でも、バカでっかいIT派遣会社があったっていいわけでしょ?
西田 それはいいんじゃないですか。佃さんはそれを否定してないんだから。バカでっかいというだけで価値には違いないし。この先、景気がどうなるか見えないことも多いけれど、いずれにしても規模の拡大というのは今後も進むでしょうね。
――もう一つは、規模は小さいけれどしっかりした技術を持っているソフト会社が、この大波にさらわれちゃうこと。そういう会社は生き残らせなきゃならない。それがM&Aなのかどうかは別として。
竹田 それこそ政策だな。
西田 いや、われわれもそういう会社にスポットを当てていく役割があるでしょう。
――IT系に限らず、紙媒体は発行部数が減って休刊が相次いでいる。これで広告がさらに減ればますますスポンサーありきの報道になっていく。全部が全部じゃないにしても、ですが。ネットワークニュース紙もIT記者会もスポンサーに依存していないから、ここでこそ出番じゃないですか。
竹田 悲しいかな、でもあるけど。(笑)
外資によるM&Aはあるか
室 わたしが関心があるのは、ファンドがどう動くか、だな。インド、中国、中東といった巨大なファンドが、次に向かうのはどこだろう、って考えると、その一部が日本のIT企業に向かわないとは限らない。
竹田 それでなくとも株価が低いからね。
西田 なまじ株式を公開してるから、気がついたら3分の1以上を外資系ファンドに握られてた、なんていうことにもなりかねない。
――そういう魅力がある会社が何社あるか、も問題ですけど。
竹田 いや、そういうことじゃなくてね。ファンドはマネーゲームなんだから、切り売りして利益を上げれればいいと考えるでしょう。怖いのは政治的な意図を持った投資。例えば製鉄、自動車といった基幹産業、金融やエネルギーといった社会インフラのシステム構築を担っている会社が外資にコントロールされるようになったら……。
西田 政府は規制緩和の方向ですからね。
室 日本の社会・経済インフラは、とてつもなく品質が高い。それが狙われたらひとたまりもないね。
竹田 製鉄会社や自動車メーカーを買収する必要はないんだよ。ノウハウと技術が手に入ればいい。
――それでいえば、技術者を引き抜いたほうが手っ取り早いじゃないですか。属人性が強いんだから。
室 外資系のコンサルティング会社が中央官庁のエリートを引き抜いてるみたいなことだ。
竹田 システムアーキテクトとプロジェクトリーダーを引き抜かれたら、日本の企業は成り立たなくなる。
室 そこに外資系ファンドが気づいているかどうか。
竹田 とっくに分かってると思うよ。ただ投資効果が小さいと見ているだけなんでしょう。わたしが気にしてるのは政府系ファンド。途上国にとって日本の社会インフラは喉から手がでるほどほしいはずですから。
――ちょっと怖い話ですね。そんなことが本当に起こったら、たしかにトンネルの向こうの景色は変わってることになりますね。その場合ね、経産省やユーザー団体、業界団体なんかに考えてほしいのは、この国の社会・経済を維持し健全に発展させていくには、いったいどれくらいのITパワーが必要なのか、ということです。それがないとビジョンが描けない。
竹田 いや、それを描くことがビジョンなんだよ。これまで日本のIT産業は、80年代までは「IBMに追いつけ・追い越せ、アメリカに負けるな」だったけど、90年代以後、コレっていうビジョンがないまま、何となく成長してきた。それは錯覚だったかもしれない、ということなんだな。今回はわたしもいい勉強をさせてもらった。この次も何かテーマを決めてやりましょう。
(おわり)
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