金衡坤氏(韓国トゥービーソフト代表取締役) これからはREA 目指すは“汎アジア企業”③
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滑り出しはラッキーだった
――韓国のITベンチャーは、三星(サムソン)や現代("ヒュンデ)、LG(金星)といった財閥系の情報サービス部門からスピンアウトするケースが多いと聞いています。トゥービーソフト社の場合はどうだったんですか?
金 わたしは財閥系からのスピンアウトではありません。つまりバックアップしてくれる企業なしでスタートしました。リッチ・クライアント・ツールのアイデアを持っていて、知り合いに呼びかけたら10人の仲間が集まってくれた。だからこそ、満足な給料がもらえなくても頑張れた。
――何とかやっていけると思ったのは2003年ごろですか?
金 いえいえ、そんな簡単ではありませんでした。製品は出したけれど、企業ユーザーからこういう機能がほしい、既存のシステムと連携させるこういう機能を付けてほしい、といった注文が次々にきて、それはもうたいへんでした。
――それだけ期待が高かったということでもある。
金 今から見ればね。でも当時は必死でしたよ。Webアプリケーションの利用が広がって、そこにたまたまWeb2.0の流れが重なって、それが追い風になった。それまでのリッチ・クライアント・ツールは業務ごとの縦割りでアプリケーションを作る。当社の「XPLATFORM」、厳密にはその前身となった「MiPlatform」は双方向機能とマルチアプリケーション対応が特徴だった。ですから当社の製品はユーザー企業が育ててくれたともいえます。
――ホームページの〈沿革〉によると、会社設立の3年目にシンガポールやアメリカの企業とパートナー契約を結んだ、とあります。最初から海外指向だったということですね。
金 韓国内でしっかりユーザーをつかむことに重点を置く、というのは今も変わっていません。しかし国内だけに目を向けていると国際標準に出遅れてしまうかもしれないし、世界の市場に出て行けなくなってしまう。当社がラッキーだったのは、まず三星グループや現代自動車の標準ツールに採用されたこと。また改良を重ねていくうちに、日本や中国、台湾といった北東アジア圏でユーザーが増えていったことでした。
――ニーズとシーズがぴったり合致した。2004年から2006年にかけて、情報システムの役割が変わってきた。そこに「XPLATFORM」が登場した。金さんはラッキーだった、というけれど、時代の要請でもあったわけです。
金 韓国の例ですが、ある大手企業がグループ全社の情報の統合的な共有化を図るために、「XPLATFORM」を採用しています。その会社の場合は、それまでのシステムを全廃して、「XPLATFORM」をベースに作り変えた。それから、本社はソウル市だけど、日本、中国、アメリカ、ヨーロッパに営業拠点があって、工場を海外に展開している。それぞれにデ-タベースを構築しているし、業務フローはそれぞれなので、一挙に統合はできない。そこで「XPLATFORM」を中間ファイルにするやり方もある。
―日本では取引先として野村総合研究所(NRI)、アイザワ証券、内藤証券の名前が挙がっていますが。
金 実は日本では、NRIさんが当社の代理店なんです。2004年だったか、いきなりNRIさんから連絡があって、東京からソウルの当社をわざわ訪ねてきた。インターネット上に展開している様ざまなコンテンツを、リクエストに応じて収集・統合して表示する。しかも利用するのにITの専門知識を必要としない。そういうツールはないか、と探していた。そうしたら当社にたどり着いたというんですね。
――NRIといえば、日本のSIerのトップグループに入ります。そういう会社が初期にパートナーとなったのは、ラッキーといえるかもしれません。でも、やっぱり時代の要請だったんですよ。
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事業再編と団塊世代の退職
金 そう言っていただけるのは嬉しいのですが、佃さんはなぜそう考えるのですか?
――ここ数年、日本のユーザー企業を取材していて感じるのは、多くのユーザーがこれから、そのようなシステムを構築したいと考えているように思います。実際、ある事務機器メーカーは部品調達から製品の保守サポートまで、顧客ごとに一貫して管理できるシステムを作ろうとしているし、あるデジタル機器メーカーは全世界の子会社や事業拠点を結ぶ統合ERPポータルを計画している。
金 あっ、やっぱりそうですか。わたしもそう感じていました。日本のユーザー企業がそう考えるようになった理由は分かりますか?
――一般的には事業の再編。子会社、孫会社を次々に作ったために、事業の機能が分散して、融通が利かなくなってしまった。それと団塊世代が第一線を退くこと。団塊世代は業務にコンピュータが導入される前の手作業時代、導入後の自動化時代にまたがって仕事をしてきて、両方のメリット、デメリットを知っている。それと現在のワークフローを作ってきた人たちでもある。その技能がいちどきに企業から失われる。そこで知識やノウハウをデータベース化して、全社で共有しようというわけです。
金 韓国では日本のそういう事情はあまり聞きません。でも、たいへん納得できるお話です。
――もう一つ言うと、企業のコンプライアンス(法令順守)と情報開示。米国会計基準に沿った四半期決算、工事進行会計といった財務処理方式の変化によって、企業は好むと好まざるとにかかわらず、連結会計の自動化を進めていかなければならない。そのとき全システムを作り直すとたいへんなお金と時間がかかってしまう。だったらWebベースで必要なデータを収集してマッシュアップすればいい、という発想になる。「クラウド・コンピューティング」という流行語も、そんな動きを先取りしたIT業界からの提案なんでしょう。
金 いいお話を聞くことができました。時代の要請というのはそういう意味なんですね。
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