金衡坤氏(韓国トゥービーソフト代表取締役) これからはREA 目指すは“汎アジア企業”④
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日韓のソフトギャップ
――あくまでもわたしの個人的な見解ですけど、1997年の通貨危機をきっかけに、韓国でITベンチャーが何百社も誕生した。日本に紹介されるパッケージはWindowsベースで稼動するインターネット関連製品が大半で、エンタープライズ向けは少なかった。ニーズとシーズが合致していなかった。それと現在も存在しているのは何社もない。日本のユーザー企業が韓国製ソフトを採用しないのは、実はそのようなギャップが原因なんじゃないでしょうか。
金 う~ん、痛いところですね。仰るように、韓国の多くのITベンチャーはつい最近まで、Windowsとインターネットに照準を当てていました。オンライン・ゲームとかホームページ構築ツールとか。そういう製品はいっときは売れるけれど、次々に新しい機能を備えた競合製品が出てくるので陳腐化するのも早い。だから出ては消え、消えては出てくる。それを繰り返してきた。その一方、国内で成功したんだから、アメリカや日本でも売れるはずだ、と錯覚してしまう。海外のユーザーが韓国製のソフトを購入しないのは、正しく評価していないからだと考える。
――それが日本と韓国の間でボタンのかけちがいを起こしてきたのかもしれません。でも、なぜエンターテインメント系、ネット系が中心で企業向けのエンタープライズ系ソフトウェアが日本に紹介されなかったのか、という疑問は残ります。
金 それは、韓国ではインターネットが最初にコンシューマに広がったからじゃないでしょうか。インターネット・カ<CODE NUMTYPE=SG NUM=5BD3>フェが人気になったのは、数年前までパソコンを持っていない家庭が多くて、それで高校生や大学生が休みの日にCOEXや明洞とかでオンライン・ゲームやメールを楽しんだ。
――たしかにそういう事情はあったと思います。一般家庭のパソコン保有率が低かったのは、経済的な理由というより子どもに対する教育熱のせいでしょう。ただね、日韓IT企業交流セミナーでNRIの佐藤寛さんが話してましたけど、韓国でも企業の情報システムは、日本と同じように特注の単品受注型で作られている。多重下請構造もある。そういう話でした。だからITベンチャーはコンシューマ向けパッケージを事業の中核に据え、さらに国内市場だけでは成長に限界があるから世界に目を向けた。そう考えると、納得がいく。
金 そう言われると、納得しちゃいますね。だからエンタープライズ向けのパッケージが少なかったのか、と。
――全くなかったわけじゃなくて、文書管理システムとかコンテンツ管理システムなんかは、日本でちゃんとユーザーをつかんでいる。日本の企業は韓国製ソフトを毛嫌いしているわけじゃない。実際、NRIが御社と提携しているじゃないですか。
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「アジアの」になりたい
金 わたしが考えているのは、これまでの話でいうと、日韓のソフトギャップをどうやったら埋めることができるか、ということなんですね。当社は年内か来年の早い時期に東証マザーズに上場する準備を進めているんですが、なぜマザーズかというと、「韓国の」という形容詞を外したいからなんです。「韓国の」と言っている限り、韓国と日本の壁を乗り越えることができない。できれば中国も巻き込んで、「アジアの」という形容詞がつく会社にしたいんです。
――その先駆けになっているのが、北東アジアOSSフォーラムから生まれたAsianuxじゃないですか。
金 韓国のハーンソフトが参加しているマルチバイト版Linuxプロジェクトですね。Webアプリケーションの利活用法を見ると、アメリカやヨーロッパとアジアではニーズが違うみたいです。ですから当社はアジア版のREAプロジェクトを興したいんですね。そのために日本のSIerとパートナーの関係を結びたい。
――ビジネスになるなら、日本の情報サービス会社は御社と販売代理店の契約を結ぶでしょう。「XPLATFORM」を組み込んだシステム開発やカスタマイズが受注できれば。ただ、そこからアジア版REAプロジェクトに踏み込むかというと、どうでしょう。
金 日本のSIerは我われ韓国の企業と比べてはるかに規模が大きいのに、海外に出て行こうとしない。何故なんですか?
――日本のITサービス会社はドメスティックである程度の規模のビジネスができる。それと特注型の受託開発が中心なんですね。IT技術者を派遣している会社も「ソフト業」を名乗っている。海外に出て行く必要に迫られてこなかったし、あえて投資先行型のパッケージビジネスを指向しなかった。これも日本と韓国のソフトギャップの一つでしょう。
金 そうすると、わたしのアジア版REA構想は難しいんでしょうか?
――現状のままなら、難しいかもしれない。例えば、この秋を境に景気が上向いたりすると、日本の情報サービス会社は元のぬるま湯に浸ってしまう。何かしなければダメになる、というところに追い込まれれば、海外に目を向ける可能性がある。
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どこから手を付けるか
金 韓国のようにIMF管理下に入るとか、大学新卒者の3割しか正社員になれないというような状況に日本が追い込まれるとは思えません。どこから手を付ければいいんでしょうかね。
――いや、そんなに悲観したものではないと思いますよ。ぬるま湯に浸っているのは、実は大手のSIerですよ。元請的な立場にいるので、この景気後退でも外注を減らして内製化すればいい。利益は減るかもしれないけれど、社員の雇用調整に手を付けずに済むかもしれない。でも、大手が外注を減らした分、中小規模の下請けソフト会社ないし地方のSIerは、仕事が3割近く減ったうえ、受注単価が1割程度、あるいはそれ以上下げられている。このまま座して緩やかな死を待つのか、かなり必死になり始めている。それとさっき話しましたけど、情報システムの性格が変わってきたように、ユーザーの意識も変わってきた。そのようにわたしは思っています。
金 なるほど。何となく日本市場での戦略が見えてきました。いや、まさかこんな深い話ができるとは思ってもいませんでした。今度、ソウルに来られることがあったらぜひ声をかけてください。
――いつになるか分かりませんが、そのときはよろしくお願いします。長時間、ありがとうございました。
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